「ジブリ実験劇場 On Your Mark」を見る

金曜日にジブリのアニメ映画「猫の恩返し」の放送があったのでビデオにとって見てみた。

で、その番組でメインである「猫の恩返し」そのものよりも個人的に印象に残ったのが、その番組中におまけとして放送された「ジブリ実験劇場 On Your Mark」の方だったりする。
これはどうも解説によると「CHAGE and ASKA」が歌う同名曲のプロモーション・フィルムとして1995年に作成されたものらしいのだが、わずか6分くらいの映像ながら世界観や演出の完成度が高く、ジブリの「隠れた名作」としてファンに認識されていたものらしい。
さすが、「隠れた名作」と言われるに足る素晴らしい話だなあと思った。



(以下ネタバレあり)
基本的なストーリーとしては、物語の舞台は地上が放射能で汚染された未来世界の地下都市での物語。警察は反社会的カルト教団のアジトへと突入し、そこで抵抗する信者を皆殺しにして教団アジト内を捜索していたところ、そこで一人の背中に羽の生えた少女を発見する。主人公の警官二人はその少女を助け出すが、その直後政府の医療班(研究班?)の一団がやってきて、その少女を研究施設へ連れて行ってしまう。その少女の救出を決意した二人の警官は、研究施設の中へ潜入。そして少女を奪い、車で地上へ逃走を図る。そして警察の追撃を回避し地上へ出た二人は、少女を大空へ解放するのだった……。

……と、この基本ストーリーだけでもなかなか面白く、6分ほどの短編で使うにはもったいないなあとも思うのだが、それ以上に個人的に気になり関心を持ったのが、この物語中に挿入される、とある演出。

それは、車で地上へ逃走を図る際、実は一度は、警察の追撃により地上への橋が大破し車は落下。主人公二人はそれでも少女だけでも逃がそうとするが、少女がそれを拒み、全員とも地上へ落下してしまうという結末になってしまうのだ。
そしてその直後。場面は再び教団アジト内で少女を発見するシーンへと戻る。そして施設へ潜入、少女を奪い車で逃走、という場面が「再放送」されるのである。
そして問題の橋が大破する場面。今度も同じように橋は大破してしまうのだが、車が落下しようとするちょうどその時、車が謎の推進力により空を飛び、見事地上へ逃走することに成功し、少女を大空へ解放するという結末に到達するのである。

果たしてこれは一体どういうことなのだろうか?
一度は「バッドエンド」を迎えたはずの物語が、何故もう一度繰り返されたのか? そしてその繰り返された物語が、「車が空を飛ぶ」という、本来あり得ない「奇跡」により「ハッピーエンド」を迎えたのは何故なのだろうか?
この辺の部分の説明は全くされないし、そもそもバックに流れるのは「チャゲ&アスカ」の音楽だけでセリフすら無いため、この作品における数多くの部分が明確には解らなかったりする。でもそれがまさしく「実験劇場」であり、また見た後にさまざまな想像を思い侍らせる余地を持つという面白さに繋がっているんじゃないかなあなんて思ったりした。

あと、この話のエンディング後がどうなるかについても解釈が分かれるところだと思う。
もし地上が本当に放射能に汚染された死の大地であるならば、この直後少女と警官はすぐに死んでしまうことだろう。
だが映像を見る限り、地上にはきれいな草原が広がり、また小さいながらも民家らしきものの姿も見えたりする。もしかしたら地上からはとっくの昔に放射能は消えていたにもかかわらず、政府が民衆を地下都市に閉じこめておくためにウソの情報を流していたということも考えられるわけでー……、う〜ん、でもこれはさすがに楽天的過ぎる見方だろうか?


とにかく、この辺が非常に興味深い作品で、「猫の恩返し」本編よりも強いインパクトがあった。
またこんな作品を見てみたいものです。