みんなと同じゲームをプレイし、みんなと同じ感想を持つゲーマーが勝ち組

まあ薄々と分かってはいたことだけど、こうハッキリと分かると、やっぱショックだよな……。


……って、あっどうも。いきなりこんな嘆きの言葉で始まって申し訳ない。
実は最近非常にショックを受けたことがあってね。そのためのそんな言葉を吐くに至ったわけだったりする。

……つーのは、最近こんな記事がネットで話題となっていたからだ。


電撃オンライン:インタビュー『世界樹の迷宮
http://www.dengekionline.com/soft/interview/sekaiju/index.html


今超絶に話題の、おそらくネットの中のゲーマーの8割はプレイしてるんじゃないかと思われるニンテンドーDSの人気ダンジョンRPG世界樹の迷宮』のディレクターへのインタビュー記事だ。

この内容については、どうでもいい。
……って、イヤどうでもいいってことはなくて、ゲームへの思い入れが感じられる素晴らしいもので、このゲームに興味のある人は是非読んで欲しいのだけども、ただですねえ。
今回ここで採り上げたいのは、このインタビューの中で最後の方に、このような発言があったからなのだ。



>ゲームっていうのはゲームそのものを楽しむより、ゲームの体験を人と話すのが楽しいんです。
>もう、「1人でゲームやって、クリアして、おもしろかった」という時代は終わったと思います。



この言葉がさー、ホントに俺にはショックだった。
もう完全に打ちのめされたと言っていい。
もうゲームの中に、俺の居場所は完全に存在しなくなっちまったと思ったさー。



……と、さて。
実はここ2週間ばかりの間に俺は2本の新作ゲームを購入した。
それは1月18日に『ギアーズ・オブ・ウォー』を購入し、翌週の25日には『三国志大戦DS』を購入したのだ。
そしてこの2本のゲームは、俺にとって決してつまらないゲームではなかった。
いやむしろ、「十分に面白かった」と言っていい。

だが、今なら断言できるが、この2本を購入したのは確実に「失敗」だったと言える。
俺は購入するゲームを間違ってしまったのだ。


それは何故か?
今ネットのゲーマーコミュニティーの間で一番の話題となっているゲームは『世界樹の迷宮』であり、2番目がXBOX360の『アイドルマスター』であり、そしてその次がPSPの『ロストレグナム』だからだ。
だからゲーマーコミュニティーの間で大きな話題となっているこの3本の中のどれかを購入することこそが「正解」であり、それ以外は「間違い」なのである。

まあ『ギアーズ・オブ・ウォー』もそこそこ人気のゲームであるが、このゲームを好みそうなゲーマー層は既に昨年アジア版が発売されたときに購入しているため日本語版が出てもコミュニティー内での盛り上がりはあまり見られないし、『三国志大戦DS』のコミュニティーはアーケード版からプレイしている人で埋め尽くされているため、DS版から入った人間は参加できそうにない状況にある。
つまりどちらも「ゲームの体験を人と話す」ことはそれほど出来ない状況である。

それに対して前に挙げた3作のコミュニティーの盛り上がりは華々しい。
世界樹の迷宮』は「この世の春」とも言える大人気ぶりだし、『アイドルマスター』はアーケード版からのプレイヤーがオピニオンリーダーとなって初体験者も含めてコミュニティーを盛り上げている。『ロストレグナム』はそれらに比べると地味であるが、ファミ通クロスレビューの点数が低かったことが逆に幸いし「ファミ通レビューなんていいかげんだよ!」的な一体感がコミュニティーに生まれて良い状況となっている。

そして俺がこんな盛り上がりを脇目に見て羨ましがっているときに言われたのが、さきほどのこのセリフだ。


>ゲームっていうのはゲームそのものを楽しむより、ゲームの体験を人と話すのが楽しいんです。
>もう、「1人でゲームやって、クリアして、おもしろかった」という時代は終わったと思います。


そうだよ……。そのとおりだよな……。
全く本当にそのとおりだよ……。
いや俺だって、このインタビューで言われるまでもなく、薄々とは分かっていた。気づいていたんだ。
だけどそのことに気づかないフリをしようとしていたんだ。


ゲームの体験を人と話せなくてもいい。
「1人でゲームやって、クリアして、おもしろかった」
それでいいじゃないか。


と、思いこもうとしていたんだ。自分に言い聞かせようとしていたんだよ。
でも、「そんな時代は終わった」と今、ハッキリ言われてしまったのだ。
これはもう…、ショックだった……。


おそらくこれからのゲームプレイヤーは、
「みんなと同じゲームをプレイし、みんなと同じ感想を持つゲーマーが勝ち組」
ということになるだろう。
ゲームの面白さが、「ゲームの面白さ」単体で決まるのではなく、
「ゲームの面白さ」+「ゲームの体験を人と話す楽しさ」
の合計で決まり、しかも「ゲームの体験を人と話す楽しさ」の方が上ということであれば、もうそうならざるを得ないじゃないか。
勝ち組になりたいのであれば、多数派が選ぶゲームをプレイし、多数派と同じ感想を持つこと。
これが唯一にして絶対の「正解」ということだ。


……とこう言うと「別に多数派と同じ感想を持つ必要はないだろう。違う感想だっていいじゃないか」と思うかもしれない。
確かに友達同士でゲームについて話すのであれば、それでもよかった。


「昨日、Aというゲームやったんだけど面白かったよ」
「そう? 俺はAはあんまり面白くなかったなあ」


という会話をしたところで、何ら問題はない。
何故なら、友達とはそのゲームだけのつき合いではないから、ゲームに対する意見の相違が絶対的な相違とはならないからだ。

だが今は違う。「ゲームの体験を人と話す」はネット上で行われる。
そしてネット上のつき合いにおいては、「そのゲームをやったこと」という事実だけがそのコミュニティーに集まる人間を結びつけている要素なのである。
だからその状況では「そのゲームに対する意見の相違」はその一つだけで絶対的な価値観の違いとなってしまい、楽しく感想を言いあうことは出来なくなってしまうのだ。


だって、例えば考えてみて欲しい。
あまり考えたくないことだが、もし俺が今話題の『世界樹の迷宮』をプレイして、そして仮に楽しめなかったとしよう。
そしてその「楽しくなかった」という意見を持って、現在絶賛の意見で埋め尽くされているその『世界樹の迷宮』のコミュニティーに割り入っていったとしたら、そのコミュニティーの人間はどのような反応を示すであろうか?


・これだからゆとり世代は困る。
・お前はゲームの本質が分かってない。
・こういう人間がウィザードリィクソゲーとか言うんだよな。


このような反応を示され、コミュニティーから排斥されることは想像に難くないことではないか。


そしてもちろんこれは逆のケースもある。
とあるゲームをプレイした人間が集まるコミュニティーにおいて、「このゲームはクソゲーだ」という意見が支配的であった場合に、ある人が「このゲームは面白かった」なんて意見を持っていたとしたら、どうなるであろう?

俺にとっては最近の例では、『FF12』がまさにそれであった。
俺自身としては『FF12』は結構面白いゲームであったと思っている。
だがFF12のコミュニティーでは「FF12クソゲー」という意見が支配的であり、日々FF12に対する罵詈雑言が吐かれているという状況であった。
俺は別にマゾではないから、自分が面白いと思ったゲームを罵倒されまくって嬉しいなんてことはない。
だからFF12のコミュニティーは俺にとって楽しさを与えるどころか、嫌な気分になるだけの場所であると言ってよかった。
ゲームの面白さが、「ゲームの面白さ」+「ゲームの体験を人と話す楽しさ」の公式で表されるとするならば、このFF12は俺にとって「ゲームの面白さ」は10点満点で8点であるが、「ゲームの体験を人と話す楽しさ」においては10点満点でマイナス10点というべき状況だった。
この結果、ゲーム自体は面白かったのに総合的には楽しくないという逆転現象が発生したのである。
そしてこれは特別珍しいことではない。
「1人でゲームやって、クリアして、おもしろかった」という時代は終わった今においては、このようなことは当たり前に発生するということである。

そしてこの状況を避けようと思ったら、取るべき行動はただ一つ。
「みんなと同じゲームをプレイし、そしてみんなと同じ感想を持つこと」。
ただそれだけなのだ。


ああショックだ……。この状況は俺にとって、たまらなくショックだ。
だって無理だ。出来っこない。
今まで散々世間のゲーマーたちと感想がずれまくっていた俺が、今更そんなの出来るわけないじゃないか。
俺だって本当は、みんなと価値観を共有できる正統的ゲーマーでありたかったのに。
真に面白いゲームを良ゲーと見抜き、きれいな映像なんかに騙されない、そんな正統的ゲーマーになりたかったんだ。
だけど、頭が悪くて正しい審美眼を持てないバカゲーマーの俺は、そんなふうになれなかったんだよ!
バカで悪いかっ! えっ?悪いって? うん、そうだね……。


嗚呼これからは、ネットで話題のゲームを見るたびに、俺は激しくおびえることとなるだろう。
だが、それがすなわち愚かな負け組として生きるということなんだろうな。




(追記)
この記事の補足みたいなもの1
http://d.hatena.ne.jp/ryouta765/20070206#p1

この記事の補足みたいなもの2
http://d.hatena.ne.jp/ryouta765/20070208#p1